ただいまキセイチュウ1 田舎に残った男の話(短編小説)


お盆休み。
都会に出た友人たちが一斉に帰ってくるこの季節が好きだ。

懐かしい顔ぶれや、こちらではとても体験できない洗練された都会の話が好き……なわけじゃない。
仕事や人間関係、狭い部屋や排気ガスで汚れた空気に倦み疲れた顔を見るのが好きなのだ。

彼らはおれに会うと口々にうらやましがる。

「こっちはのんびりしてていいよなあ。毎日終電まで残業してるやつなんていないだろ」
「給料の3分の1が家賃でなくなるなんてこっちじゃ考えられないよな。それで住めるのはユニットバスのワンルームだぜ」
「あなたは変わらないね。私なんか3倍は老け込んだ気がする。もう帰ってきちゃおうかな」

そういう声を聞くとたまらない優越感に浸れるのだ。地元に残った自分の判断は間違ってない。仕事がなく、定職につけないのだけは難点だが、実家住まいで娯楽の少ない田舎なら生きていくのに大金は要らない。あくせく働いても稼いだ金を使う時間がなければしょうがない。これからはスローライフの時代だ。

「帰ってきた連中に会ってくるよ」

おふくろにそう告げて慣れ親しんだ玄関を出る。
すると背中からおふくろのつぶやきが聞こえてきた。

「あの子も帰省中の子たちを見習って働きに出てくれたらいいのに。同じ読みでもぜんぜん違うよ」

そう、おれは実家の寄生虫だ。

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