ビジネス文法が美文を殺す、ということ


国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

言わずと知れた川端康成「雪国」の一節。名文の代表である。
真っ暗なトンネルを抜けた後に広がる一面の雪。ぼんやりと星明りを照り返すその景色に目を奪われて、ふと汽車が止まっていることに気がつく。そんな情景が目に浮かぶ。

でもこれをビジネス文書でやったら完全にNG。

「それで、結論は何?」

と言われてしまうのがオチ。

ビジネス的に正しく書くならこんなかんじか。

「2.4kmのトンネルを抜けると北側の斜面に出るため、周辺は雪景色に一変します。乗客はその美しさに目を奪われるでしょう。そうして呆けているところに駅へ停車します。そこですかさず売り込むのがこのわが社の新製品『雪国弁当』です!!」

雪国弁当なんてものまでつい書き足してしまったけれど、とにかく直裁的でわかりやすいのがビジネス文法だ。

一方、文学の世界で直裁的なのは逆にNG。
「美しい」とか「おいしい」とか、価値判断を含む形容詞を安易に使うと駄文とされる。

「あの店のカレーはとても辛いがおいしい」

「あの店のカレーを一口頬張ると舌にたまらない痛みが走る。だが気がつけば米粒のひとつも残さず食べつくしていた」

もちろん前者が駄文。後者の方がたぶんマシだ。

仕事をしていると前者を求められることがほとんどで、後者を書くことは滅多にない。仕事ばっかりしていると、当然ながら文学的な意味での筆力は衰えていく。

そんなことをふと思ったので、このブログでは仕事に関係ないことばかり書こうと方針を定めた次第。まあカッコつけたところで、ただのガス抜きなんですけど。

ちなみに体言止めの多用も駄文だって言われるんだけどね。この短いエントリーで6箇所もあるよ!えへへ!

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