元家電量販バイヤーが明かす、アップルのマーケティングの真髄


アップルすげーアップルすげー、スティーブ・ジョブズのような人物がなぜ日本に生まれないんだ、と念仏を唱えるアップル信者を見かけるたびに、そんなにアップルが好きならジョブズの追い腹を切ればよかったのに、と心の底から願っている元バイヤーの岡崎です。こんばんは。

アップルのマーケティングがすごいのは確かですが、何がそんなにすごいんでしょうか?

元「業界の中の人」だった視点から、思うところを書いてみようと思います。

一般に、アップルのマーケティングとして真っ先に挙げられるのが強力なブランディングです。

最近だとスタバでMacBook Airを開いてドヤ顔するのが流行だったり、一昔前のN.Y.ではiPodに付属しているアップル純正の白いイヤホンをしてジョギングするのがセレブのたしなみだったりしたわけです。ねえ奥様、N.Y.ですって、まあおしゃれ。

「アップル製品=おしゃれ」

この図式が出来上がっているのは確かにすごい。

しかし、これはあくまで表面的な話です。

大事なのはどうやってそこに至ったのかではないでしょうか。

追い腹を切らなかったライトなアップル信者の方々は現在のおしゃれなアップルだけを見ているので、値崩れを起こさないアップル製品を見て「高付加価値商品の鑑」みたいな大誤解をやらかしちゃってると思うんですよ。

絶好調の現在のアップルを見ていてもわかりづらいので、ちょっと歴史を振り返ってみましょう。

倒産寸前で、マイクロソフトが独占禁止法に引っかからないために細々と延命させられていた時代に、復活の狼煙を上げた大ヒット商品「iMac」をまずは見てみましょう。

178,000円(当時)という低価格が広く受け入れられ、大ヒット商品となり、それまで経営危機が囁かれていたアップルの復活を強く印象づけた
http://dictionnaire.sensagent.com/imac/ja-ja/ より引用

はい、安売りでヒットしたんです、iMac。

当時、完成品のパソコンは20万円以上が普通だったと思います。NECや富士通のローエンドモデルで248,000円とか、そんなプライシングだったんじゃないでしょうか。

そんな時代に衝撃的だったのがこの価格、そしてダメ押しのこのCMです。

「ええっ、ピザ1枚分の値段でパソコンが買えるのかい?!」

こんなフレーズを覚えている方も多いのでは。

実際には月賦支払いなので、ピザ1枚分の値段で買えるわけではなかったのですが。

あのアップルが「金利・分割手数料はジャパネットが負担!」みたいことをやってたんですよ。

(YoutubeでCMを探してみたけど見つからず。黒歴史として消してまわってるのかなあ)

普通はこんな売価設定や販促キャンペーンを仕掛ければ、安物メーカーとしてブランドイメージが定着してしまうのですが、アップルが上手かったのはここから。

当時、PCでは考えられなかったカラーバリエーション展開を行うことによって、カラフルでお洒落なパソコンというそれまでのスペック競争とは違う軸での価値訴求をやってのけたんです。

この作戦は見事に当たりました。

透け透けの安物プラスチックで作られた筐体は、それまで普通だった墓石を髣髴とさせる見た目のパソコンとは一線を画するデザイン性を有しており、「安いからじゃないのよ。可愛いから買ったんだからね!」という言い訳に十分な説得力を持たせるものだったのです。

これにより、本当は高性能でみんなが持っている高級品のWindowsPCを買いたかった貧乏人が、安物でしょっちゅうフリーズする上に対応ソフトも乏しいMacを購入する大義名分を得られたのです。

iMacの好調により、アップルは上り坂に入ります。

続いての戦場はデジタルオーディオプレーヤーです。

当時はまだ「MP3プレーヤー」だとか、「リキッドオーディオ」なんて呼ばれてましたっけ。

そこにぶち込んだキラー商品が「iPod shuffle」でした。

「iPod」ではないことにご注意いただきたいのですが、これがまた安かった!

板ガムのような見た目をしたこの製品はモノクロディスプレイすら備えておらず、聞きたい曲の指定もまともにできない、日本メーカーなら夢にも商品化をしようとは思わない欠陥品。品質にうるさい日本人がこんなものを買うはずがない、メーカーの開発陣ならみんなそう考えていたんじゃないかと思います。

ところが、なんということか予想に反して大ヒットを飛ばしてしまいました。

業界紙の販売ランキングで、シェア上位は常にiPod shuffleで占拠されていたと記憶しています。

その理由は明白で、やっぱり安かったから。

正確にはおぼえていませんが、初期のiPod shuffleは128MBで9,800円前後。

同じ容量の日本メーカー製品は安くて14,800円とかそんなもんだったと思います。

いまは亡きリキッドオーディオジャパンとか、泡沫の無名メーカーの製品でやっと同じくらいの値段だったような。

ここでもアップルは高度なデザイン性で「低価格=安物」のイメージを避けています。

また、普通なら必須と考える「選曲表示用のモノクロ液晶」まで削り落として低価格を実現していたのがすさまじいです。

ランダムな曲に出会える意外性が楽しいだとか、わけのわからん持ち上げ方をしていたデジモノ雑誌も消費者と一緒に洗脳でもされていたんじゃないかと思うほかありません。

アップル信仰の柱のひとつに「シンプルさの追及」がありますが、その精神はこのあたりで培われたのではないかと思います。

さて、ここまで消費者サイドに焦点を当ててきましたけれど、もうひとつ語らなければいけないのはアップルの価格統制の厳しさです。

独占禁止法やらなんやらに抵触しまくりなんですが、アップル社は小売店に販売価格を強制します。

どうやってそんなことを実現しているのかというと、やり口は意外と単純で、アップルが決めた値段を守らないと商品の供給を止めてしまうんですね。

売り物がなくなってしまっては困りますから、販売店もアップルの言いなりにならざるを得ません。単純なだけに対抗手段がありません。

直営店も含め、色んなお店がアップル製品を売っているのに、どこも同じ値段なのはこのためです。

これは今でも変わっていないと思われます。

安売りでシェアを取ることを戦略にしたアップルは、泥沼の価格競争の不毛さも知悉していたのでしょう。

低価格路線を貫きつつ、勝手な値引き販売をさせないことで値崩れを防ぎ、計画通りの利益率を保つことに腐心しました。

販売数量も店舗ごとに毎日報告させる体制を整え、ついには「アップル認定店」でなければ販売できないというジャイアンも驚きの流通体制を整えたのです。

(非認定店のECショップでアップル製品を売ろうとしたときは本当に面倒くさかった!!)

「そんなの昔話ばかりじゃん!最近のアップルは高付加価値で高単価な商品を売ってるんだよ!理想だよ!神様だよ!」

昔話ばかりですとこんな反論が返ってきそうですが、アップル社はいまでも安売り戦略を継承しています。

たとえば、MacBook Airのローエンドモデルは84,800円です。

ASUSやレノボにもっと安いのはありますけれど、それにしたって安いでしょう。

タブレットならどうでしょうか。iPad2はいまアップルストアで見たら34,800円でした。

デジタルオーディオはどうでしょうか。iPod shuffleは4,200円です。

ね、お安いでしょう?

長々と書きましたけれども、何が言いたいのか要点を申しますと、

「売れる値段をつけるのがマーケティングの最大の使命であり、売れる値段で利益を出す仕組みを作ることが経営だ」

という話です。

表面だけなぞってアップルのブランディングはすげーとか言ってる人は完全に見誤っているので気をつけてください。本当に。

* * *

この記事を書いたきっかけですが、大ソニーの大幹部がこんなことをおっしゃっていたので、イラッとして書き殴った次第です。

アップルの話は出てないけど、水を向ければ「アップルを見習ってブランドを守り、安売りをせず高利益率を保つ」とかトンチンカンな発言が引き出せたんじゃないでしょうか。

「安いからソニーにしよう」ではなく「この値段でも買いたい」を目指す――ソニー・コンピュータエンタテインメント取締役兼ソニーマーケティング社長 河野弘氏インタビュー
ソニーグループの商品は、「安いからソニーにしよう」って言われるようではダメだと思っています。マインドシェア、つまり「ソニーの商品が欲しい!」って言ってくださる人が7割、でも「ちょっと手が届かないなぁ」っていう人が3割。このバランスが一番いいパターンだと思うんです。

「えっ、こんないいものがこの値段で買えるの?!」

を提供するのがサービス提供者の務めでしょうが。

ソニー復権の日はまだまだ遠そうだなあ。。。

ちなみにこの記事は台湾ASUS製PCで書いております。

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